パーキングメーターについては既にいくつかの記事を書いてきています。
- [駐車違反]パーキングメーターは未納だと違反になる?[警察に聞いてみた]
- [駐車違反]パーキングメーターの秘密2[料金未納]
- やはりパーキングメーターの「手数料」は納める必要がない?
- [道交法]パーキングメーターの手数料の支払いは任意だった![施行令]
これまでのまとめ
パーキングメーターについてこれまで調べてわかっている事は以下の4点です。
- 制限時間内(60分なら59分)までは手数料未納でも駐車違反になりません
- 制限時間を過ぎたら(60分なら61分から)手数料を支払っていても違反になります
- 道交法と同施行令を読む限りでは、手数料の支払いが義務であるとする規定がありません
- 警察には「未納だと駐車違反になる」とする法的根拠となる文書が存在しません。
私としては、知りたい事は十分わかったのですが、前記事での警官とのやり取りの後に、警察から電話が掛かってきて、「手数料条例が云々」と言ってきましたので、それについても調べてみました。
警視庁関係手数料条例
警視庁=東京都という事ですが、他の道府県においても同様の条例があるものと思われます。必要と思われる部分を抜粋引用してみます。
第五条 詐欺その他不正の行為により、手数料の徴収を免れた者は、その徴収を免れた金額の五倍に相当する金額(当該五倍に相当する金額が五万円を超えないときは、五万円とする。)以下の過料に処する
別表第一(第二条関係)
スマホからだと別表が読みにくいと思いますので、表の内容を以下に文字起こしします。
手数料を徴収する事務:(一) 法第四十九条第一項の規定に基づくパーキング・メーターの設置及び管理(同条第二項に規定する措置に係るものを含む。)
手数料の名称:パーキング・メーター作動手数料
額:時間制限駐車区間での駐車時間が二十分とされているものについては百円、四十分とされているものについては二百円、六十分とされているものについては三百円
徴収時期:パーキング・メーターを作動させるとき。
まずわかるのが、パーキング・メーターに入れる「手数料」は「メーターを作動させる時に支払う手数料」であって、「駐車料金」ではないという事ですね。
これだけでも「未納だと駐車違反」とする主張が崩れます。手数料を入れなくてもメーターは作動するのですから、問われる罪があるとすれば「手数料を支払わなかったこと」であって、車を止めたらすぐにメーターは勝手に作動(感知して時間計測を開始)するのですから、道交法49条の規定には触れません。
道路交通法第49条3項の4
4 車両の運転者は、時間制限駐車区間において車両を駐車したときは、政令で定めるところにより、第四十九条第一項のパーキング・メーターを直ちに作動させ、又は同項のパーキング・チケット発給設備によりパーキング・チケットの発給を直ちに受けて、これを当該車両が駐車している間(当該パーキング・チケットの発給を受けた時から道路標識等により表示されている時間を経過する時までの間に限る。)、当該車両の前面の見やすい箇所に掲示しなければならない。
この条文は、「パーキング・チケット」の方は、手数料を払ってチケットを貼らなければ駐車違反になる事も示しています。何しろ法律の方に「見やすい箇所に掲示しなければならない」とあるのですから、掲示していなければ仮にチケット自体は買っていても駐車違反になるでしょう。
第5条の罰則を見ておく
先程の条例の第5条をもう一度見てみます。
第五条 詐欺その他不正の行為により、手数料の徴収を免れた者は、その徴収を免れた金額の五倍に相当する金額(当該五倍に相当する金額が五万円を超えないときは、五万円とする。)以下の過料に処する
さらっと凄い内容が書かれていますよね。パーキング・メーターは大体300円のものが多いですから、300円の5倍で1500円かと思いきや、「5倍相当額が5万円を超えない時は5万円とする」なんて書かれています。ボッタ○リバーもビックリです(笑)
これを見て不安を抱いてはいけません。ちゃんと書いてあるじゃないですか。「詐欺その他不正の行為により」って。
詐欺罪は不成立
パーキングメーター相手に詐欺罪は起こしようがありません。機械をどうやって騙すんですか?(笑)
それでも不安を抱く方の為に詐欺罪についても調べておきます。
詐欺罪(さぎざい)とは、人を欺いて財物を交付させたり、財産上不法の利益を得たりする(例えば無銭飲食や無銭宿泊を行う、無賃乗車するなど、本来有償で受ける待遇やサービスを不法に受けること)行為、または他人にこれを得させる行為を内容とする犯罪のこと。刑法246条に規定されている。未遂も罰せられる(250条)。
構成要件
- 一般社会通念上、相手方を錯誤に陥らせて財物ないし財産上の利益の処分させるような行為をすること(欺罔行為又は詐欺行為)
- 相手方が錯誤に陥ること(錯誤)
- 錯誤に陥った相手方が、その意思に基づいて財物ないし財産上の利益の処分をすること(処分行為)
- 財物の占有又は財産上の利益が行為者ないし第三者に移転すること(占有移転、利益の移転)
- 上記1〜4の間に因果関係が認められ、また、行為者に行為時においてその故意及び不法領得の意思があったと認められること
どう見ても手数料の未納が詐欺罪に該当しそうな要素すら見当たりません。難しい単語ですが機械相手に欺罔行為が行えません。
欺罔行為
欺罔(ぎもう)行為は相手方に処分行為をさせることに向けられたものでなければならない。また、錯誤を引き起こさせる行為であるから、相手方は人でなければならず、機械を騙したとしても本罪は成立しない(ただし電子計算機使用詐欺罪が成立する可能性はある)。
電子計算機使用詐欺罪はハッキングやクラッキングによって電磁記録を書き換えるなどの行為が必要ですからやはり無関係です。そもそも、詐欺罪ってかなりハードルが高いんですよ。不成立の実例を見ていただければわかると思います。
いわゆる「無銭飲食」に関しては、当初の意思や経過によって下記のように派生する。
最初から無銭飲食するつもりで店に入って飲食し、「財布を取ってくる」等と店員に嘘を言い、そのまま逃走した場合
→詐欺罪成立(代金を支払う意思がないにもかかわらず注文するという欺罔行為により店員が錯誤し、飲食物を提供した)
最初は正規に飲食するつもりで店に入って飲食していたが、食後に食い逃げを思い立って「財布を取ってくる」と店員に嘘を言い、そのまま逃走した場合
→詐欺利得罪成立(代金を支払いに戻る意思がないにもかかわらず、店員に「財布を取ってくる」と告げるという欺罔行為により店員が錯誤して承諾し、店を離れ、よって代金の支払いを免れるという財産上不法の利益を得た)
最初は正規に飲食するつもりで店に入って飲食していたが、食後に食い逃げを思い立って、店員の隙をついて店を出て逃走した場合
→詐欺不成立(店に欺罔行為を行っていないため詐欺罪が成立しない。窃盗罪にも該当しないため、刑事責任を問うことは出来ない。但し民法上の責務を負う)
一番最後の事例がショッキングですよね。食後に食い逃げを思い立って、店員の隙を見て逃げたら刑事責任は問えないそうです。「財布を取ってくる」と言ったらアウト。言わなかったら民事上の賠償請求しか受けるリスクがありません。飲食店ではいちいち身分証明なんかしていませんから、要するに逃げ切る脚力のある人間にとっては無銭飲食し放題の国なんですね、ニホンって…
話が逸れましたが、詐欺罪は成立しません。だって、機械を騙せないし、後で手数料を払おうと思っていたのにうっかり忘れてしまうだけなんですから。
その他不正の行為?
何ですか?この曖昧な表現は?
法律ってのは本来かなり厳密に規定されているべきものなのですが、何が「不正」なのかについて規定が無ければ守りようがありませんね。
これについても「うっかり手数料を納め忘れる行為」が不正の行為にはなりえません。不正の行為というのは、例えば偽造硬貨を使って未納のカウントを消したとか、針金みたいなものでコジったら未納が消えたとかいうようなものでしょう。わかりませんけど(笑)
うっかり払い忘れる行為は、確かに結果的には手数料の徴収を逃れていますが、「詐欺その他不正の行為によってない」ので過料の対象にはなりません。
現に私が冤罪を食らいそうになった時も、ちゃんと警察に手数料を納めていない事を伝えたのに払えとも言われませんでした。車を移動させてしまったらもうメーターに手数料も入れられませんしね。
過料は行政罰
次は過料について考えてみましょう。そこまで詳しく知りたくないですか?それはそれでいいのですが、メーターに「手数料を入れないと駐車違反になります」というウソが書かれているので、しっかり反論しておきましょう。
過料(かりょう)とは、日本において金銭を徴収する制裁の一つ。金銭罰ではあるが、罰金や科料と異なり、刑罰ではない。
(中略)
過料を科す定めは多いが、その性質は一様でなく、適用される法理・手続も数多くある。大きく次の3種に分けられる。
- 秩序罰としての過料
- 執行罰としての過料
- 懲戒罰としての過料
- 秩序罰としての過料
(中略)
秩序罰としての過料には、民事上の義務違反に対するもの、民事訴訟上の義務違反に対するもの、行政上の義務違反に対するもの、地方公共団体の条例・規則違反に対するものがある。
- 民事上の義務違反に対するもの – など
- 民事訴訟上の義務違反に対するもの – 民事訴訟法192条など
- 行政上の義務違反に対するもの – 住民基本台帳法50条など
- 地方公共団体の条例・規則違反に対するもの – 地方自治法14条3項など
- 地方税の滞納処分の例によって徴収される(地方自治法231条の3)。
分類するなら「秩序罰としての過料のうちの3.「行政上の義務違反に対するもの」」でしょうね。
何にせよ、過料にしているという時点で手数料未納は行政上の義務違反にはなっても、刑事罰の対象にはなりません。そして、これを規定した事自体が、警察にとっての致命傷になっています。
手数料を入れる意味がない
よくわからないでしょうか?
例えば一般道で40km/h超過くらいの違反をした場合
刑事処分:起訴されて有罪になれば罰金8万円くらい
行政処分:反則点数6点なので免停などの行政処分
となります。これは「速度超過」については、道交法には刑事罰としての罰金刑の規定が、道交法施行令には行政罰としての反則点数や行政処分の規定が書かれているからです。ちゃんと法令で規定されているワケです。
ところがパーキング・メーターについて考えてみると
刑事処分:直ちにメーターを作動させなかったら駐車違反
行政処分:手数料を不正に逃れたら過料
という規定しかないのです。
もし、「手数料を入れないと作動していない」と言った警官の発言が正しいなら、未納の場合は作動させていないのですから不正云々以前に未納では「徴収を逃れたこと」になりません。警察が制限時間内の未納を検挙しない事は既に明らかになっていますので、以下の論理構成になります。
①手数料を入れていないので作動していない(警察の主張)
→駐車違反に該当するが制限時間内に手数料を支払えばOKなので取締りを受けない
→未納のまま車を移動してしまっても、そもそも作動させていないのだから作動手数料を支払う必要はない
次に、社会通念と思われる「車を停めたらすぐにメーターは勝手に作動している」という前提に立ってみます
②手数料を入れていないが作動はしている(社会通念?)
→「直ちに作動させた」ので制限時間内は駐車違反ではない
→手数料の払い忘れは「詐欺その他不正の行為」ではないので、手数料の徴収逃れによる過料にも該当しない
それぞれ別々に法令や条例を作ったのでこういうおかしな事になっているのでしょうが、手数料を支払うメリットがどこにもないという事がわかります。本来、おカネというものは、何かの商品やサービスを受ける対価として支払うものですが、パーキング・メーターの作動手数料については、支払側が受け取る対価が存在しません。
払っても払わなくても制限時間内は取締りを受けず、払っても払わなくても制限時間を過ぎたら取締りを受ける。さらに言うなら、私が冤罪を食らいそうになった事例のように、停める前からメーターが勝手に誤作動をしていたら、無実であっても検挙され、たまたまドラレコの記録があるなどの反証が無ければ放置違反金を取られてしまうのです。もう、ムチャクチャですね。
まとめ
- パーキング・メーターの手数料とは「作動手数料」だった
- 未納なら作動していないなら、作動させたくなければ入れなければよい
- 未納でも作動しているなら、制限時間内は駐車違反ではない
- 結局、手数料を支払うメリットが一つも見当たらない
パーキング・メーターについてはこれで調べ尽くした感があるのでこれで完結とします。最後まで読んでいただいた方々、本当にありがとうございます。