前回の記事では、欧州ではMT車が今でも主流である話と、アメリカでAT車が流行り自動運転に進んでいるというあたりの話をしました。
今回は「何故日本ではハイブリッドとミニバンばかり売れるのか?」というお話をします。当然の事ですが、私の意見であって正誤や善悪の問題ではありませんので、好きでハイブリッドやミニバンを購入した方は、この記事は読まない事をお勧めします。
ハイブリッドはエコイメージを買っているだけ
ハイブリッド車はガソリン車よりも燃費が良いのは間違いありません。しかし、三菱自動車の計測不正事件を見てもわかる通り、メーカー発表のカタログ値になど何の意味もない事は皆さん御存知だと思います。
ハイブリッド車はモーターやバッテリーの搭載スペースが必要なため、ベースグレード(がある場合)のガソリン車と比べると車重が重く荷物スペースが小さくなりがちです。そのようなデメリットがあってもなお、ハイブリッド車を購入した方が得なのでしょうか?ちょっと検証してみましょう。
プリウスやアクアはガソリン車グレードがないので、ここではホンダのフィットで検証してみます。まずはハイブリッド・ガソリンのベースグレードの価格を比べてみましょう。
- ガソリン車:約130万円
- ハイブリッド車:約170万円
- 差額:約40万円
ベースグレード同士を比べた場合、フィットハイブリッドの方が若干パワーがありますが、その分重い(フィット:970kg・フィットハイブリッド:1080kg)ですから、実際に乗ってみたらモーターのトルクがある分フィットハイブリッドの方が若干乗りやすいという程度の差だと思います。110kgの差というのは案外大きく、常に大人を2名余計に乗せているのと同じですからね。
購入時の差額は約40万円です。エコカー減税やらの影響を考えても、ハイブリッド車は少なくとも30万円以上は割高です。では、これ差額をガソリン代で取り返す為にはどのくらい乗れば良いのでしょうか?
実燃費はどんなもの?
カタログ値はアテになりませんから、実燃費を検討しなければなりません。
フィットハイブリッドの実燃費は17.72km/L、ここではオマケして18km/Lで考えます。それにしてもハイブリッド車のカタログ値との乖離率はヤバイですね。まあ、「信じる方がバカ」という事なんだと思います。
ノーマルフィットの方はどうでしょうか?
フィットの平均燃費は14~18km/lです。
街中ではストップ&ゴーが多く10~13km/lくらい。
高速道路やスムーズな道路だと16~20km/lくらい。フィットは初代から燃費が非常によいと評判です。
2013年にフルモデルチェンジをして新型フィット3が登場。
1.3Lモデルのエンジンをアトキンソンサイクル使用のL13B型にしたり、アイドリングストップを採用したりすることで燃費を向上させました。
どの数字を使えば良いか難しいですが、とりあえず14km/Lで計算してみましょう。
では、以下の前提で差額の30万円を取り戻すまでの距離数を計算してみます。
- ガソリン代(レギュラー):110円/L(うちの近所のGS価格)
- フィットの実燃費:14km/L
- フィットハイブリッドの実燃費:18km/L
走行距離をXとすると
- フィットのガソリン代=X/14×110
- フィットハイブリッドのガソリン代=X/18×110
で求められます。この差額が30万円になれば良いのですから、
X/14×110-X/18×110=300,000
計算すると
X=171,818
17万キロ走行してようやく初期費用の差額が取り戻せます。
これでは金銭的なメリットはありません。「ハイブリッドカーに乗っている自分は環境にも配慮したエコな人間だ」と思いたいのかもしれませんが、環境に配慮するなら乗らないのが一番、あるいは一人で移動する時は多少不便でも原付やバイクの方が余程環境負荷が少ないです。
ハイブリッドカーの実燃費がカタログ値とは4割も乖離している時点で、コスト面でのメリットはほぼありません。仮にガソリン車が10km/Lでハイブリッドが20km/Lというように、燃費が倍違ったとしても、30万円程度の価格差を埋める為には55,000kmも走行しなければなりません。そして、そこまでの実燃費差はないのが現実なのです。
ハイブリッドカーは車が主でドライバーが従になる
ハイブリッドカーにはコスト面でのメリットがほとんどない(プリウスのベースグレードは価格を抑えているので数万キロでコスト回収は出来ますが…)としても、それだけが車を買う理由ではありませんから、私はハイブリッド技術そのものを否定しているワケではありません。
問題は、エコ運転を推奨しまくってくるハイブリッドに乗っているとドライバーが従になってしまうケースが多いという点です。
これはハイブリッド車だけでなく、最近のエコカー全体に言える事ですが、特にハイブリッド車では「車によるエコ運転の推奨」が激しいです。
瞬間燃費計やハイブリッドシステムのインジケーターが、これでもかと言うくらいエコ運転を推奨してきます。ドライバーは車の指示に従ってアクセル開度を出来るだけ維持して定速走行を続けようとします。
完全に車が主で人が従になっています。欧州でハイブリッドカーが流行らない理由は、ハイブリッド車はATが前提である事や、この主従関係が逆転するという点ではないかと思います。
実は、プリウスあたりは走行性能は決して低くありませんし、モーターの方が回転数が低くてもトルクがありますから、踏みさえすればスタートダッシュも悪くありません。なのに周囲の車の流れに乗らずに自分勝手なエコ運転でプチ渋滞を作り出している先頭車両が、多くの場合ハイブリッド車やミニバンである理由は、この運転者が従になってしまっている事が原因の一つなのではないかと思います。
もちろん、ハイブリッド車であっても、安全かつ円滑な運転をしている人もいくらでもいるでしょうが、しっかり加速してキビキビ走ると燃費は伸びません。ハンドルや座面から感じる接地感から路面情報を読み取りつつ、アクセルフィールからエンジンの調子やトルクを感じながら運転という行為そのものを楽しみたい人にとっては、ハイブリッド車を購入する理由は何もありません。
なのにハイブリッド車ばかり売れているという事実は、日本人が運転を楽しもうとしていない事の顕れです。ハイブリッド車を好んで購入している層は、自動運転の実用化が進めばやはりそれにも飛び付くでしょう。それでは「運転は退屈で出来るだけやりたくないもの」と考えている米国人と同じです。
ドライバーが主でありたい
私は20代の一時期をバイク乗りとして過ごしました。バイクの運転はMT車と比較しても5倍くらい、AT車と比較したら100倍くらい楽しかったです。わざわざツーリングに行かなくても、風を感じながら走る爽快感、単なる交差点でも車体を傾けて曲がっていく時に感じる重力や慣性力、シフトアップする時のクラッチや左足の感覚、シフトダウンするとエンジン回転数が跳ね上がってエンブレが掛かる時の感覚、全てが心地良くてかなりハマりました。
バイクですらATであるスクーターとミッション車では楽しさがまるで違いますが、やはり私は欧州人と同じく「運転を楽しみたい」気持ちが強いのだと思います。
だから欧州ではハイブリッドシステムではなく、小排気量+ターボのダウンサイジングや、クリーンディーゼル(最近の報道を見ていると実はクリーンじゃなかったらしいですがw)によるディーゼル車の普及に繋がっていったのだと思います。その方向性であれば、ドライバーと車の主従関係が逆転せずに運転できますから。
日本で小排気量ターボや自家用車用ディーゼルがなかなか普及しない原因は、排ガス規制の問題や道路事情などという側面もあるとは思いますが、一番の理由はユーザーがイメージだけでハイブリッドやエコカーを選ぶからでしょう。メーカーは売れさえすれば何でも作るものですから。
次回の記事ではワンボックスカーについて書きます。読者を減らす結果になるかもしれませんが、どうせカネにならないサイトなので構いません(笑)