「バイクが売れないのは免許取得が難しいせいだ」という根拠のない思い込みを根拠として、経産省が125cc以下の原付2種の免許取得の簡易化を検討している件について以前記事にしました。
アホの極みだと思ったのですが、自動車バイク業界関係者の中には、この施策を好意的に捉える向きもあるようです。立場によって見え方は様々なんですね…
オートックワンの記事
二輪の免許制度緩和で125ccバイクも普通免許で可能に?SNSでは否定的コメントも
http://autoc-one.jp/special/2906766/
現在『原付二種』と呼ばれる125ccバイクに乗ろうとすれば、普通免許と別の『小型自動二輪免許』が必要。結果として二輪車の販売は伸びない。そんなことから経産省は規制緩和を検討しているという。
具体的に書くと、例えば「原付」の概念を延長し、普通免許を持っていれば125ccバイクまで乗れるようにすることを考えているようだ。
実際、普通免許を持っているような人なら、50ccも125ccも大差ない。50ccバイクに乗れるテクニックあれば125ccだって乗れると思う。交通の流れに乗るには50ccより好ましいほど。
といった点からすれば無理もないし、むしろ今まで50ccに限定してきたのが不思議。世界規模で見ると50cc程度の動力性能のバイクは無免許で乗れるからだ。
もっと言えば、そもそも50ccまでしか乗れない原付免許そのものがナンセンスかもしれない。免許の名前からして「原動機付き自転車」。免許の取得を義務づけるなら125ccくらいの排気量くらいまで乗れるようにしたらいいと思う。
今の原付免許取得時「講習+実技」を倍くらい上乗せする程度で十分じゃなかろうか。
125ccは高速道路に入れないため、80km/hくらいでの速度リミッター稼働を条件にすれば安全面だって確保出来る(現在の50ccは60km/h以上出ないように自主規制)。
「年齢が低いと危険」だというなら、同じ原付免許でも18歳まで50cc限定。18歳以上なら125ccまで乗れるようにする、という内容も実効性高いと考える。
興味深いことにSNSのフェイスブックやツイッターで、125ccまでの免許制度緩和のニュースに否定的なコメントを書いてるのはアイコンにアニメを使う層ばかり。口を揃えて「危険だ」「事故が増える」「やめろ!」。
こういった人達はバイクにも乗らない、極めて行動範囲の狭い人達なんだと思う。繰り返すが、125ccバイクの乗るのに日本ほど取得ハードルの高い免許制度を導入している国は、ほとんど無し。
通勤でクルマを使っている人が「今日は天気がいいのでバイクで行こう!」という状況になれば渋滞だって緩和するし、そもそも125ccバイクならリッター40km/Lくらい走るため環境にもやさしい。
しかも皆さんがバイクに乗ることで、バイク乗りに対する「やさしさ」が出てくる。
バイクも東南アジア製の110ccなら、現在の50ccと同じ20万円程度の価格で売れると思う。
[Text:国沢光宏]
自動車評論家の国沢光宏氏の記事なんですが、ニホンのモータリゼーションの衰退を嘆く気持ちは私と同じなのに、モータリゼーション復活(そもそもあったかわかんないけど)の為の提案が私とは180度異なるようです。
彼の論説をまとめてみると、
- 普通免許で原付2種まで乗れるようにしたらよい
- 原付2種には80km/hのリミッターでも付ければ安全性が確保される
- 導入に反対しているのはアニヲタなどの行動範囲が狭い人間
3.あたりは彼なりの炎上商法なんでしょうか?続きの記事を見てもバイクの免許基準緩和に否定的な人を「精神的な引きこもり」と断定してさらに煽っているように見えます。
まあ、自前のサイトで持論を展開しているだけですから、それはそれで良いのですが、私が不思議なのは、自動車やバイクの楽しさを我々よりも遥かに知っていそうな自動車評論家が、どうして速度規制が厳しすぎる点については触れずに、むしろリミッターを付ける方向での主張をしているのか?ということです。
速度違反が事故の主因ではない
長年かけて洗脳されてきた我々の頭の中には、どうしても「速度が速い=危険」という擦り込みがされてしまっていますが、交通事故の主因は速度超過(スピード違反)ではありません。
死亡事故原因のトップ5
- 安全運転義務(漫然運転)
- 安全運転義務(脇見運転)
- その他の違反(何それ?)
- 安全運転義務(安全不確認)
- 安全運転義務(運転操作不適)
速度違反は交通三悪どころか、トップ3にすら入っていませんでした。
高齢者が増えた事によって交通事故に占める高齢者の割合が増えていますが、高齢者が事故を起こすのは判断能力や反射神経が落ちているからであって飛ばしまくっている高齢者なんてまず見かけません。
明らかに25歳未満の若年層と、70歳以上の高齢者の割合が高く、死亡事故に限って言えば、25歳未満の若年層よりも75歳以上の後期高齢者の事故率の方が高いです。
しかもこのデータは第一当事者(事故の主因を作った者)のグラフですし、10万人あたりの事故件数ですから少子高齢化も関係ありません。単純に「若年層と高齢者が事故を起こす事が多い」と言えるわけです。
若年層の事故原因の中には、若気の至りとも言える速度超過も一定数あるでしょうが、論理的に考えれば、運転経験が浅い為に経験不足・技能不足である事が要因と言えるでしょう。免許取得を簡単にすればするほど、技能不足の者を次々と公道上に放り出す事になり非常に危険です。少なくとも技能面について、免許の取得条件は厳しくした方が事故は減らせます。
若年層については、経験はいずれ積まれますし、技能も公道で揉まれているうちに徐々に上がるかもしれません。しかし、高齢者の場合は既に十分すぎる程の経験があり、若い頃は技能も高かったであろう者が、老化に伴って各種の身体能力が落ちてきてしまっているのですから、基本的には今から技能が上がる事はありません。
なのに、免許証の更新講習は70歳以上でようやく1時間の実車講習、75歳以上や認知症の恐れがある人でも2時間の実車講習だけで更新が可能です。これでは高齢者の事故が減らせるわけがありません。前々から主張している事ですが、運転免許の取得基準はもっと難しくして、更新時には急制動と緊急回避の技能試験くらいは実施すべきなのです。
「免許取得を簡単にしたら事故が増える」は正しい
国沢氏は自動車評論家ですから、もっと車やバイクが好きな若者が増えて、昔みたいにバイトして、ローンを組んで、スポーツカーに憧れる若者が増えて欲しいのでしょう。それは私も同じです。
しかし、経産省が提案している「バイクが売れないから小型自動二輪免許(125cc未満)の取得を簡単に」は、バイクという事故に遭えば簡単に自分が死んでしまう乗り物に、運転技術が未熟な者を乗せてしまう事に繋がり、技能不足を原因とした事故が増えるのは明白です。
原付2種なら原付1種と大差ないというような意見も書いてありましたが、とんでもない。原付1種と原付2種は全くの別物です。三輪車と自転車くらいの違いがあります。
私はリッタークラスの大型バイクに乗っていましたが、セカンドバイクとして原付2種や250ccのアメリカンバイクも所有していました。加速・減速・コーナリングなどのあらゆる面において、小型バイクとリッターバイクでは世界そのものが異なりますが、公道上で出会う様々な危険(ハザードなしでのタクシーの急停車、ウィンカーなしでの突然の左折、対向車との右直事故リスク)などは、こちらがリッターだろうが原付だろうが関係ありません。
そういう瞬時の判断能力や急制動・緊急回避行動などについては、むしろしっかり作ってあるレーシングバイクの方が能力が高く、原付2種ですら加速力不足が原因で危ない目に遭った事が何度かあります。車体が軽いのは利点ですが、基本的に1人乗りを前提とした足回りですから、2人乗りしている時の制動力は中型以上のバイクよりも劣ります。ブレーキが効かないって致命的ですよ…
バイクに乗って都内を走った経験がある人なら誰でもわかるハズです。自転車を乗るような感覚で乗って良いシロモノではないということが…
原付2種が売れても1種が売れなくなるだけ
前の記事にも貼ったグラフですが、
仮に国沢氏の読みが正しく、経産省が考える免許取得の容易化が「普通免許で原付2種まで乗って良いことにする」だった場合、原付2種の販売台数は増えるでしょうか?
おそらく少しは増えるでしょう。で、その分原付1種の販売台数が減ると思います。
潜在的な原付2種の購入層は、今原付1種に乗っていて、30km/h制限や2段階右折義務に不便を感じているが、原付2種を買う為だけに二輪免許を取るのは面倒だしお金も掛かると考えている層でしょう。
原付2種に乗りたいのに2輪免許を取らない人は、別に2輪免許の取得が技能的に難しそうだから取らないのではありません。教習所に通うお金と時間がもったいないと考えているからです。
いくら技能講習を簡単にしても、教習所の教習費用が大幅に下がらない限りは、わざわざ原付2種の免許を取りに行く人は増えません。
だから、原付2種を運転できる人を増やしたければ、国沢氏の予想のように「普通免許所持者は原付2種も運転可能とする」しかないのです。それだけにこの予想は現実味があります。
で、「普通免許で125ccまで乗っていいよ♪」と言われた所で、じゃあ買ってみようかなと考える人は、既に原付1種を持っている人が中心だと予想され、「1種+2種」の総販売台数はよくて微増、普通に考えれば現状維持でしょう。
バイクに乗るのは覚悟が出来ている人だけでいい
これは私のバイク観であって、誰にも同意してもらわなくて良いのですが、バイクは事故に遭えばまず無傷では済まず、いとも簡単に死にます。
長生きすることだけが人生の目的ではないでしょうから、バイクに乗ることによって感じる自由な世界観と引き換えに、常に死と隣り合わせであるという覚悟が必要だと思います。そしてこの覚悟は、「自転車なのに幹線道路で車道を走る人」にも同じく求められるものです。
私がバイクに乗っていたのはたかだが4年間くらいでしたが、その間に直接の知り合いが2名生命を落としました。大怪我での入院経験がある者は数え切れません。私も右上腕粉砕骨折・右下肢単純骨折で1ヶ月半の入院+1年間のリハビリをしました。あの事故で死んでいても全くおかしくありません。
飛ばしていなくても、大型トラックなどに引っ掛けられたら簡単に死ねます。
いくら気を付けていても、信号待ちをしていただけなのに「信号を見ていなかったタクシー」に追突されて吹っ飛んだ経験もあります。これが車なら「オカマを掘られた」くらいの感覚で、ムチウチを訴えて接骨院に通いまくれば事故成金にもなれるかもしれませんが、バイクの場合は一歩間違えれば死んでしまいます。
その代わりに手に入る爽快感・人馬一体という言葉の意味がわかる万能感などがバイクの魅力である事は確かですが、それらはどうしても生命のリスクと引換にしか手に入らないものなのです。
バイクに乗るのは、その覚悟がある人だけで良いです。半ヘルで大股開きで乗るようなアホにまで免許を与えなくていいです。私は真夏でもメッシュ字の長袖を着て、常にフルフェイスで、飛ばすつもりの日はツナギに脊髄パッドを付けて乗っていました。事故の時に削れたヘルメットは、半ヘルだったら守られていなかった部分です。
今は子どもが2人いるので簡単には生命を賭けれません。いつか子ども達が自立したらまた乗りたいと考えていますが、その時はまたちゃんと覚悟を決めてから乗るつもりですし、その時に公道上に「覚悟も技能もないのに好き勝手に走り回る原付軍団」が溢れていない方が余程助かります。
コメント
まあ、バイク乗りは増えないし、バイクは売れませんよ
なんたって、バイクは交通ヤクザこと白バイの目のカタキ
しかも、ミドリムシからも放置違反の目のカタキ
125ccまでいいよと言われても、乗りたいヤシがどこまでいるか
日本に交通ヤクザがいる限り、この辺は変わらないでしょうね
私もそう思います。白バイからは覚悟があれば逃げ切れますが、むしろ放置違反金制度の方が問題で、合法的に駐車できる場所がほとんどありません。
バイクなのに出掛けた先で駐車出来ないなんて意味がありません。普通免許で原付2種まで乗れるようになったところで、原付使用者が買い替え時に2種に買い替えるだけで、その分1種の販売が落ちて終了だと思いますね。
> 免許証の更新講習は座学だけで技能試験が無い
http://www.unten-menkyo.com/2008/08/70.html
70歳以上になると、更新講習以外に、
事前に指定された自動車学校で講習(実技あり)を受けなければなりません。
一応、ちょっとは対策をしています!
http://www9.plala.or.jp/hiyotrio/newpage024.htm
に『昔取ったおいしい免許』の説明があります。
父は自動車の運転免許試験しか受けていませんでしたが、
昔の二輪の限定解除(今の大型自動二輪)もオマケで付いていました!!
私が若い頃、その限定解除の合格率は一桁台(1%?)と言われていました。
車も特殊車両や二種以外、何でもOKのお宝免許でした。
昔はもっと恐ろしい(お気楽な?)免許制度だったなぁと・・・
http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/menkyo/koshu/koureisha_anzen.html
来年3月12日から高齢者に対する制度の見直しが行われますね!
『臨時認知機能検査制度及び臨時高齢者講習制度の新設』は、
危ないドライバーを減らす効果が少しはあるかなと思いました。
いつも情報ありがとうございます。高齢者講習の内容について調べた上で記事を編集しようと思います。
昔は免許制度については大らかな時代でしたが、反則金制度が創設され、免許制度によるカネの還流システムが出来てからは改悪される一方です。大型自動二輪も教習所で取れるようになりましたが、私が試験場で取得した時も、計72名の受験者で合格者は私だけでした。旧限定解除についてはそのくらい難しくてちょうど良いと思えるくらいのモンスターマシンですけどね…