青切符は否認さえ貫けば99.9%以上不起訴になると私は書き続けてきたのですが、相変わらず質問の中には「検察に呼ばれたから起訴されるのでしょうか?」「サイトの状況とは少し異なるので起訴されてしまうのでしょうか?」というような根拠のない不安に基づいたものが日々舞い込みます。
元が赤切符か青切符かによって区分した統計が存在しない以上、私が主張している「不起訴率99.9%以上」というのも推測でしかないのですが、今回は公開されているデータから可能な限りの検証を試みてみました。
すると、予想外におかしなデータになっていたのです。
2013年の検挙数
検証に用いるデータは以下の2つです。
- 交通事故統計年表(平成25年版):http://www.itarda.or.jp/materials/publications2.php?page=5
- 検察庁別 道路交通法等違反被疑事件の受理,既済及び未済の人員(2013):http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001126683
交通事故統計などは、警察の天下り団体である「交通事故総合分析センター」とやらが公開しているのですが、税金から随意契約で多額の費用をせしめておきながら、無料版については2年前の物が最新という碌でもない財団法人です。
それはさておき、使いたいデータを抜き出してみましょう。
赤切符・青切符を含めた違反取締総件数は7,442,124件です。年間744万件も取締りをしているんですね。
ところが、この取締りのほとんどは軽微な青切符の違反で、その件数は隣の列の7,081,632件です。
ここまでわかれば「2013年に警察は赤切符と青切符を何枚ずつ切ったか」がわかります。
- 赤切符(非反則行為):7,442,124-7,081,632=360,492件
- 青切符(反則行為):7,081,632件
この数字は後で何度か使いますので、ざっくりでも良いので覚えておきましょう。
青切符を否認した人数
ITARDAが無能過ぎて「反則金徴収額については年度単位」とか言っています。検挙数は2013年の1~12月のものなのに、反則金納付率は年度単位とか、統計になっていないではないですか?
それでも二つの統計を見比べると「反則金を支払わなかった人数」が推測できます。知っておくべき前提は以下の青切符と赤切符の違いです。
- 青切符:反則金を支払わなかった人だけが送検される
- 赤切符:違反を認めようが否認しようが原則送検される
2013年の赤切符の検挙数は360,492件でしたね。で、検察統計の新規の通常受理数を見ると…
通常受理(警察が送検した数)の合計は356,485件です。左側の「計」にある47万件というのは右の方の「他の検察庁から」というような移送したものを含んだ総数ですから、やはり見るなら「通常受理」の数です。保管法違反は別扱いですから道交法違反容疑の通常受理を見るのが正解です。
あれあれ?赤切符の検挙数にすら足りていないですね。まあ、12月の末の検挙などはまだ送検されていないとか、被疑者に逃げ切られてしまって送検できていないとかがあるにしても、青切符を否認したり、反則金を払わなかったケースも送検されるのに、受理数があまりにも少なくないでしょうか?
さて、青切符を切られたけど反則金を支払わなかった人はどれだけいるのでしょうか?表の納付率の所を見てみると、
- 平成24年度:納付率98.2%
- 平成25年度:納付率98.5%
となっています。暦年における平成25年(2013年)は、平成24年度の1~3月期と平成25年の4~12月期の合計ですから、単純計算で平成25年の納付率を予想すると…
平成25年の納付率=(98.2+98.5×2)/3=98.4%
と予想されます。なんでかって?納付率が年度を通して変わらないと仮定して、1:2の比率計算をしただけです。
平成25年の青切符の検挙数は7,081,632件ですから、「反則金を納付しなかった人数」は
反則金未納者=7,081,632×0.016=113,306人
と予想されます。
送検されずに終わるケースが多々ある?
これは私にとっても意外なデータと言えます。本来ならば送検される数は
赤切符の検挙数+青切符で反則金の支払いを拒否した数=送検数
になるハズですから、平成25年(2013年)のデータに当てはめれば
360,492+113,306=473,798件
になるハズです。この数字は「他の検察庁から」や「家庭裁判所から」の送検数を含んだ受理数の総合計で472,698件の方に近いですが、既済の項目には「他の検察庁へ」という項目に112,556件が記載されていますから、これは違反地と居住地が異なるような場合に移送したり、区検で否認されたので地検に送致したようなケースの数であって、取締りをした警察が最初に送検した数についてはやはり「通常受理」の方を見るのが正解のハズです。
そうすると、本来送検されるハズの473,798件のうち356,486件しか送検されていないことになります。いくらなんでも少な過ぎる気がしますね。
最初から否認せずに反則金の支払いのみを拒否した場合、しばらくは督促が続いてすぐに送検されませんから、1年単位の統計では数が揃わないのは理解出来るのですが、違反から3年の時効前には送検するハズですから、2012年以前の分が送検されてそれなりに数に上っていなければおかしいです。
これに関して考えられる説明は以下の3つのいずれかです。
- 青切符を否認したケースは検察統計には載っていない
- 赤切符で検挙されたり、反則金の支払いを拒否しても送検されない数が相当数ある
- 検察統計か交通事故統計のどちらか、または両方のデータがおかしい(虚偽または捏造)
1.である可能性はかなり低いと思います。反則金を支払わなければ刑事処分になるのが必然ですし、軽微な反則行為も道交法違反である事に変わりはありません。
2.である可能性も低いです。現に私自身が青切符を否認した時に検察に電話して不起訴処分の決定書を書面でもらいましたから、青切符を否認すればちゃんと送検されることは明らかです。
また、後述する不起訴数が12万件もありますから、青切符が統計に入っていないとすると、36万件の赤切符の検挙のうち、違反を認めて略式に応じた人が21万人もいますから、否認した人、あるいは悪質過ぎて最初から公判請求をされる人の合計数15万件のうち12万件もが不起訴になるというのでは、赤切符の不起訴率が高過ぎます。
3.の可能性は、一見すると「そんなわけはない」と思ってしまいそうですが、そもそも統計というのは「嘘、大嘘、そして統計」のうちの一つですからね。
検察統計は検察庁が、交通事故統計は警察庁がそれぞれ集計したところ、すり合わせ不足で妙な事になっている可能性も十分あります。
現時点では謎は解けていません。なぜ、送検数がこんなにも少ないのでしょうか?
公判請求がやたら少ない
赤切符の不起訴率についての記事では、地検における公判請求数と不起訴数を比較して不起訴率を計算していましたが、赤切符であっても悪質性の高くない違反については区検に送致されて略式命令を勧められますから、青切符・赤切符をまとめた不起訴率を考えるのであれば、区検と地検を合わせた全体の公判請求数と不起訴数を比較しなければなりません。
「否認したのに起訴された」または「悪質性が高いと判断されて強制的に起訴された」人が公判請求を受けるワケですが、区検・地検の合計で6,834件しかありません。赤切符の検挙だけでも36万件もあるのに、です。
「ほとんどの人は素直に認めて略式を受けるからではないか?」と思われますよね?では、略式に応じて罰金刑を食らった人は何人いたのでしょうか?
略式命令請求は211,103件です。公判請求数と足しても217,937件です。つまり、2013年に道交法違反容疑で罰金刑以上の有罪判決を受けた人は、のべで21万8千人くらいしかいないのです。
何度も言いますが、交通事故統計によれば、赤切符だけでも36万件の取締りがあり、青切符に関しても納付率は98.4%程度であり、10万人くらいは反則金の支払いを拒否したハズなのに、です。
不起訴はどちらの不起訴なのか?
不起訴数の合計は123,258件です。ほとんどが起訴猶予であるとはいえ、不起訴は不起訴、無罪と同じです。
そのうちの114,913件が区検における不起訴なのですが、これは青切符を否認した場合の不起訴数であるハズなのです。
何故なら、赤切符にせよ青切符にせよ、否認しない限りは不起訴になりません。赤切符なんて完全に流れ作業で「違反したんでしょ?略式でいいよね?」的な対応しかされないのです。
オマケに日本人は権威や権力に弱いですから、反則金の納付率が98.5%程度であるところを見ても、赤切符を食らった36万人のうちの12万人(3人に1人)が否認して争った、なんてミラクルが起こるワケがないのです。そこまで自立した国民が多かったら、今のニホンはこんなに悪くはなっていないですよ。
さて、ここまでに出てきた「公判請求数」「略式命令請求数」「不起訴数」を足すと何件になるでしょうか?
6,834+211,103+123,258=341,195件
他に「中止」や「未済」がありますから、この程度の誤差ならば、通常受理数の35万件とそこまで矛盾しないのですが、やはり赤切符約36万件、青切符の未納約10万件という数字と比べると違和感しかありません。本来あるべき数よりも、検察の受理数や処理数が少な過ぎるのです。
とりあえず全体の不起訴率を出しておく
どうも交通事故統計の数字が信用できないので、検察統計のみで「青切符・赤切符を問わない不起訴率」と「地検単位と区検単位での不起訴率」を計算しておきましょう。
繰り返しになりますが、「略式命令請求は違反を認めて否認しなかった人だけしか受けられない」のですから、否認した場合の不起訴率の計算には入れません。
全体の不起訴率=100-全体の起訴率=100-公判請求数÷(公判請求数+不起訴数)×100=100-6834÷(6834+123258)×100=100-5=95%
地検の不起訴率=100-6743÷(6743+8459)×100=100-44.4=55.6%
区検の不起訴率=100-92÷(92+114913)×100=100-0.08=99.9%
私が「青切符を否認した場合の不起訴率は99.9%以上」と主張する根拠はこの区検のデータなのですが、赤切符と青切符を区別せずに計算してこの数字なのです。
大幅な速度超過や酒気帯び運転等が赤切符に該当するワケですから、普通に考えれば赤切符の方が起訴率が圧倒的に高く、青切符の起訴率はもっと低いハズです。
計算が合わないのは交通事故統計の数字と合わないからなのですが、少し考えをまとめたいと思いますので、それについては次回の記事で書こうと思います。
とりあえずのまとめ
- 検察統計と交通事故統計の数字がズレ過ぎている
- 青切符と赤切符を区別しないとして、全体の不起訴率は95%
- 地検における不起訴率は全国平均で55.6%
- 区検における不起訴率は全国平均で99.9%